465−オカリナ

東京時代の話です。東京で生活を始めてから余りお金に困る事はなかったのですが、一度だけこんな事がありました。

バイトの給料日の前日が休日で朝からパチンコ三昧の結果、昼過ぎには一文無しの状態になります。当時は貯金などしていませんでしたから本当に一文無しで、まだ東京に出て来て間もなかったので近所に友達もいないのです。翌日まで飲まず食わずでも何とかなったのでしょうが朝から何も口にしていないものですからお腹が空いてたまりません。

午後3時位に我慢も限界に達し、とうとうアパートの裏で見つけたカタツムリを油絵に使うペインティングオイルで炒めて食べるのですが苦くてとても食べられたものではありませんでした。人は切羽詰まるといろんな事を思いつくもので、生まれて一度も利用した事のない『質屋さん』に最後の望みをかけることを決断します。

部屋にある高価な品物といえばオカリナくらいでしたが、高円寺の骨董品屋さんで7000円で購入したものですので最低でも1000円位にはなると踏んだのです。それだけあれば結構豪華な食事にあり付けますから小雨の降る中オカリナを手にオンボロの傘をさし、板みたいになった下駄を履いて質屋さんに向かうのですが何と質屋さんの手前10メートル位の所で道路に引かれた白線のツルツルした部分で足を取られて派手に転んでしまい頼みの綱のオカリナは木っ端微塵に砕け散るのです。   つづく