456−学生服

高校1年の時に近所の方に学生服を頂きます。息子さんが高校生の時に着ていたものらしいのですが学生服の替えは何着あっても助かるので有難く着させていただきました。頂いた詰襟の学生服は少し大きかったのですが、色が真っ黒ではなく光線の具合で何故か緑色に見えたりするので目立ちたがり屋の私としては結構気に入って着ていました。

その制服を着ていたある日の放課後、食べ盛りの不良3人で駅裏のラーメン屋に入ります。3人はアッという間に完食するのですが、いくら経っても誰も店を出ようとしないのです。別に話が弾んでいる訳でもないのに誰も席を立とうとしない事に痺れを切らしたのはM君でした。

「…で、誰がおごってくれるの?」

その言葉に全員が凍りつきます。3人が3人とも誰かのおごりだと思っていたのです。3人の小銭をかき集めてもラーメン一杯分にもならないのですから大変です。我々のテーブルに何とも言えない緊張感が生まれそれは殺気のレベルにまで達するのですがその殺気は厨房にまで達していたのでしょう、従業員はあきらかに警戒態勢に入っています。

「本当に持っていないのか」と念を押された私はとりあえず制服のポケットというポケットをもう一度探るのですが私が「ない」と言えばそれが合図となり全員全速で店を飛び出していたと思います。

ところがあったのです。何と胸の左の内ポケットの内側にもうひとつの小さなポケットがありその中から小さく折り畳まれた1000円札が出て来たのです。当時ラーメンは一杯300円もしなかったので絶体絶命の危機を乗り越える事が出来たのですが、その1000円札が制服の内ポケットから出て来た事は関係者には内緒にしたままです。


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