352−水鏡

子供の頃、近所に不思議なおばちゃんがいました。普段は普通のどこにでもいるおばちゃんなのですが、裏の小川で遭遇する時はチョット違っていたのです。

しょっちゅう遭遇するわけではなく、友達と小川で遊んでいるといつの間にかそこに居たり、空き地で野球をしていて小川に転がったボールを探しに行った時にたまたま居たりするのですが決まって小川を覗き込んでいるのです。

たまに立ったままの姿勢で覗き込んでいる事もありましたが、大抵しゃがみ込んで流れの穏やかな水面を覗き込んでいました。


最初は水面を鏡の変わりにして自分の姿を映しているのだと思っていたのですが実はそうではなく、水面に映った自分以外の何かを見ていたのです。

我々が近づいても話しかけても何ら嫌がらず、本人はその行為を特別な行為だとは思っていないようでした。

おばちゃんが言うには水面を覗き込んでいると『遠くの事』が見えるのだと言っていました。その時は「変わったおばちゃんだな」位で深くは追求しませんでしたが、その『遠く』が距離のことだったのか、あるいは未来や過去の時間のことだったのかくらいは確認しておけば良かったと思います。


その体験が原因かどうかわかりませんが今でも私は『鏡』の語源は『屈む』から来ているのだと思い込んでしまっているのです。


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