327−お茶

もう随分前の事ですが、母親が親せきのお通夜に出席しなくてはならないと言うので私が車で30分程かかる葬儀社まで連れていくのですが、あまりお付き合いのない遠い親せきらしく儀礼的なあいさつ程度ですぐに退散すると言うので通夜の席に私も連れて行かれます。


12畳ほどの和室には10数人の年配の方々がいたのですが、2〜3人の顔に何となく見覚えがある程度で後はほとんど初めて見る人ばかりでした。

その中にひと際目立つ30歳代前半の女性がいたのですが、後で母親にその女性は亡くなられた男性の別れた奥さんだという事を聞かされます。

3年ほど前にご主人とお子さんを捨てて若い男性と一緒に家を飛び出したとのことで、それがご主人の亡くなられた直接の原因ではないにしろ可なり大きな要因になっているのは何となく感じ取れました。


通夜の席にしては少しばかり派手な洋服とヘアースタイルの彼女に話しかける人はいませんでしたが周りの人達の冷たい視線を凛として受け止める彼女の表情の中に、私達には理解しえない彼女の決意の様なものを感じました。


20分ほどで母親と私は通夜の会場を出るのですが、私は見てしまいました。

立ち上がりながら何となく彼女の方に視線を向けた時に、正座をして両手で包みこんだ彼女の湯飲み茶碗が爆発したのです。

爆発と言っても湯飲み茶碗が割れたのではなく、湯飲みの中のお茶が火山の噴火の様に派手に噴き出たのですが湯飲みはまだ胸元にあったので彼女の息が原因ではありません。


あれは湯飲みの中で何かがさく裂するか、さもなければ天井から目に見えない何かが可なりの勢いで湯飲みの中に落ちてこない限りあのような事にはならないと思います。

そこに何かの意思のようなものを感じたのは事実です。


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