157−偶然

度を超えた偶然というのは恐怖です。

20代の頃、購入したばかりの車でドライブに出かけるのですが、熊本の阿蘇から大分に戻る途中で近道をしようと山道に入ります。

当時はカーナビなどありませんし地図も持っていなかったのですが、ただ知らない道を走ってみたいという衝動的な冒険心だけで無茶をしてします。

案の定、深い山の中で道に迷ってしまうのですが、すでに日は暮れて辺りは真っ暗です。

勿論携帯電話などありませんし民家さえ見当たらないのですからさすがに心細くなってきます。

山の中を1時間近く走った頃、道の前方から若い男性がこちらに向かって歩いて来るのが見えるのですが私は道を尋ねるかどうかを躊躇してしました。

何故ならこんな深い山の中で明かりも持たずに歩いているなどチョッと変だと思ったからです。

ところが車がその人に近付くに連れ、もっと変なことになります。

どう見てもその男の人は従弟のS君なのです。

『そんなことはない、こんな所にS君がいるわけがない』そう自分に言い聞かせても間違いなくS君なのです。

仕方なく車を止めて助手席の窓を少しだけ開けて恐る恐る声をかけて確認するのですが、驚いたのはS君の方でしばらくはその状況が信じられないようでした。

ほとんど興奮状態の中で話を聞いてみると、S君は福岡での用事を済ませて帰宅途中に山道でガス欠になってしまい、民家で電話を借りようと10分程山道を歩いていたらしいのです。

S君は仕事柄道には詳しく一番近いスタンドでガソリンを購入し、自分の車まで戻りS君の先導で無事大分まで戻ることが出来ました。

今考えてもあり得ない偶然ですが、偶然もここまで来ると『ハッピーエンドの恐怖』と言った方が良いような気がします。


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