156−お見舞い

チョッと不謹慎な話になりますが、随分前に母親と伯母さん(母親の姉)を連れて入院中の伯父さん(母親の兄)を見舞いに行ったときの話です。

おじさんの入院生活は長期にわたっており、随分体力も落ちていると聞かされていました。

病室に入ると酸素吸入器を口にあてがわれ見る影も無いほどに痩せてしまったおじさんが寝ています。

母とおばさんはベッドの脇に駆け寄り、おじさんにすがりつくようにして声をかけるのですが、おじさんは目を開けませんでした。

人はこんなに泣けるのかと思うくらいに2人の嗚咽は病室に響き渡るのですが、ふと見ると窓際のベッドで手を振る人がいます。

そしてこう言います。

「おい、その人は〇〇さんだ。俺はここだよ」

人の感情とは不思議なもので、それまでこの世の終わりかと思えるくらいに泣き喚いていた母とおばさんは何事も無かったかのように窓際のおじさんのベッドに駆け寄り、すぐさま大笑いです。

その笑い声で目を覚ました酸素吸入器のおじさんも少し笑っていたのを私は見逃しませんでした。


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