135−25センチ

これは不思議な話ではなく、非常に珍しい話です。何故ならそれに遭遇したのは後にも先にもその一度きりですし、これから先もおそらく出会えるとは思えないからです。

それは30代の頃、造形の仕事で熊本のテーマパークに30日ほど泊り込んで各地から集まった優秀な職人達と仕事をした時の話です。

そこで昔同じ職場で働いていたS君と5年ぶりの再会をするのですが、立派なトビ職人になったS君との再会が嬉しくて、30日間パーク内のホテルの同じ部屋で寝起きを共にさせていただきました。

私はお酒を一滴も飲めないのですが、S君は昔から無類の酒好きでその日の仕事が終わると決まってビールから始まり必ず日本酒で締めくくるという規則正しい生活を30日間貫き通します。

何故か最後の数日は金粉の入った日本酒を飲んでいたのですが、理由を聞いても適当にはぐらかされるだけでした。

最終日の朝、作業服に着替えている私にS君は申し訳なさそうにこう言います。

「チョッと見てもらいたいものがあるのですけんど、かまわんですか?」

どこの方言かわからないのですが、決して私をオチョクッテいる訳ではなく、昔からそう言う喋り方なのS君は私をトイレに連れて行くと「見てもらいたかったのはこれですけん…」と便器を指差すのです。

何とそこには信じられないくらいに神々しい輝きを放つ太い棒のようなものが横たわっていました。

金粉が散りばめられたと言うより、金で出来たと言った方が正しいと思われるそれは大きさも感動的で、しばし観賞した後、S君が流した水に抵抗するかのように便器の向こう側の穴の中で直立したのです。

もう少しで泣いてしまいそうな感情を必死でこらえながらS君の顔を見ると、人間はここまで誇らしげな表情が出来るのかと思うくらいの笑顔でこう言います。

「自分に出来るのは、これくらいですけん・・・」

意味はわかりませんでしたが、勢いで「ありがとう」と言ってしまいました。