120−ローリエ

数十年前東京に上京して間もない頃、高円寺にある小さなレストランでカレーを頂いたときの話です。

レストランに一人で入ったのは生まれて初めてのことなのでチョッと緊張していました。

それは々とても美味しいビーフカレーだったのですが、何故か木の葉が一枚入っているのです。

後に月桂樹の葉を乾燥させたカレーやポトフなどに使う香辛料ということは理解するのですが、恥ずかしながらその時はまだローリエの存在を知りませんでした。

しかしお皿に盛り付けられた状態でローリエが入ったカレーはその後もあまり見たことがありませんからもしかしたら間違って入っていたのかも知れません。

どっちにせよ、その時はその葉っぱを食べてよいものか残した方がよいのか真剣に迷うわけです。

何故かというと、地方から出てきたばかりの人間だと悟られるのが恥ずかしかったからなのですが、「葉っぱが入っているよ」と店員を呼ぶ勇気はありませんし、葉っぱだけ残すというのもそれが正しいのかどうかがわかりませんから結局食べてしまうことにしました。

ところがそれがえらく硬いのです。小さく噛み切っても中々喉を通りません。

結局そのことばかりに集中してしまってカレーを味わう余裕などないまま食事を終え、動揺を悟られまいと文字通り何食わぬ顔をしてレジで代金を支払っている時に奥の厨房からこんな会話が聞こえてきました。

「おい、ローリエは入れたのか?どこにもないぞ!」

「おかしいなぁ…確かに入れたはずなのに…不思議なこともあるものだなぁ…」

私は逃げるように店を出たのですが、実を言うと未だにローリエは食べてよいのか悪いのかわからないのです。


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