007−メジロ

小学5年生の頃、メジロを飼うのが流行ったのですが、私はそれほど興味を持ってはいませんでした。しかし近所の中学1年生のN君はどうかしたのではないかと思うほどメジロに興味を持っていました。

3羽も飼っているのに、終末のたびに山に捕獲に行くのです。

ある日私に声がかかり、強制的に連れて行かれたその場所は、彼に言わせるとメジロの捕獲には最高の場所だと言うことでした。

山の峰の少し拓けた所に形の良い広葉樹が一本あり、その周りは1メートルほどの草が生い茂っていました。その木の枝に〝トリモチ〟を巻き付けた四〇センチ位の細い竹をいくつも仕掛け、N君は十メートルほど離れた草むらに隠れます。

私の仕事はその木の近くの草むらに身を潜め、N君に厳しく指導を受けたメジロの鳴き声を口笛で真似ることなのです。

私はひたすら口笛を吹きました。それは普通の口笛ではなく、前歯に舌を当て微妙に舌の形を変えながら力強く、それでいて優しくと言ったかなり高度なテクニックを要するものなので、十分も吹き続けると疲れてくるのです。

いつの間にか私は草むらの中で仰向けに寝転がったまま口笛を吹き続けていたのですが、しばらくすると周りの草むらから「カサッ、カサッ」という音が聞こえてきました。何だろうと思っていると、なんと何羽もの緑色の小鳥が私の周りに集まってきたのです。

メジロでした。
私は出来るだけ体を動かさないようにして口笛を吹き続けました。その内、体の上に乗ってくるメジロもいて、更には私の口許に向かって「ツィー、ツィー」と鳴き出す始末です。
そのままではどうのもならないので、たまたま左手の側にいたメジロをそっと握ってみるとこれがなんと、捕まえることが出来たのです。

その途端に私の周りにいた7〜8羽のメジロ達は一斉に飛び立ちましたが、運悪く私の体と腕の隙間に挟まれたメジロは逃げられず、結局私は2羽のメジロ素手で捕まえてしまったのです。

N君の話に寄れば、無数のメジロがトリモチの木にはとまらずに直接私の居る草むらに入って行ったのだそうです。

きっとメジロの子供が怪我をして親に助けを求める時の鳴き声に似ていたのだろうと言っていました。

その一羽を私は飼うことになったのですが、ある日、餌の交換中に逃がしてしまいました。メジロを飼うことにあまり興味のなかった私としては好都合な事だったのですが、ちょっと試してみたい事がありました。

竹ヒゴで出来た鳥かごの入り口を開けたまま、裏山に向かって口笛を吹いてみたのです。
誰も信じてはくれませんが、メジロは自ら鳥かごの中に戻ってきたのです。

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