006−ヒキガエル

 あの頃の私はいつも空腹だったような気がします。小学校から戻ると日が暮れるまで外で遊びまわるのが私の中での常識でしたが、遊びの中に、山に入って季節の木の実を探して食べる、というのもちゃんと組み込まれていていました。

ですからどこに行けば何があって、いつ行けば何が食べられる、と言うことが自然と身に付いていました。それは食べ物だけに限らず、色んな方面にわたってそれに付属する事柄を把握していた様に思います。

たとえば、あそこにはアケビはあるがマムシもいるので注意する必要があるとか、あそこの柿は渋柿だがその近くにある山芋のつるは太いのでそろそろ掘れるとか、友達同士で情報の交換も盛んに行われていました。その頃は〝観察〟が私の中での遊びを充実させるための手段になっていたのです。
 
そんなある日、小川のそばの草むらでヘビの死骸を見つけました。それだけなら特別珍しい事でもないのですが、一緒に大きなヒキガエルがいたのです。ヒキガエルは裏返しになったヘビの上を行ったり来たりしているのです。

ただ意味もなくそうしているのではなく、頭の方からシッポの先までジグザグに移動し、こんどは逆にシッポから頭の方にジグザグに移動していたのです。

ヒキガエルはそのうちどこかへ姿を消しました。珍しい行動を目撃した事にその時はそれなりに感動しましたが、遊びに夢中でそのことはすぐに忘れてしまいました。1週間ほど経った頃、ふと、そのことを思い出し草むらにヘビの死骸を探したのですが、その光景を見て私はしばらくその場から動くことができませんでした。

ヒキガエルがいたのです。最初はヒキガエルがヘビを食べているのだと思ったのですが、良く見るとヘビに湧いた〝ウジムシ〟を食べていたのです。

そうなのです、ヒキガエルはウジムシを食べる為にヘビの死骸に細工をしたのです。おそらく腐敗を早める為、体から特殊な物質を分泌したと思われるのです。勿論そのことは誰にも信じてはもらえませんでした。

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