002−ヘリコプター

 ヘリコプターで思い出したのですが、私の母はどうもヘリコプターフェチの様なのです。

最近になってその辺のことを本人に訊ねて見たのですが、やはりヘリコプターには特別な感心を持っているようです。

彼女の場合、ただ単に興味があるとかではなく、実際に接触を試みるのです。私が初めてその現場に遭遇したのは小学生の低学年の頃で、夏休みもそろそろ中盤に差し掛かる昼に近い午前の事でした。

その日は珍しく居間の応接台で「夏の友」という当時の夏休みの定番である宿題を嫌々こなしていたのですが、実はその時も母はベランダで洗濯物を干していたのです。 

遠くの空にヘリコプターの「バタバタバタバタ」という音が聞こえた時にはすでに母はベランダには居ませんでした。

その時はまだ母とヘリコプターの関係を知りませんでしたから、別に気にも留めずにいたのでが、確実に近付いてくるヘリコプターの音が大きくなるに連れ、その距離の近さに尋常ではない何かを感じていました。

ベランダの洗濯物はヘリコプターが巻き起こす風でほとんど真横にたなびいていたのです。「ギュンギュンギュン」という大きな音にたまらず外に飛び出してみると、家のすぐ横にある空き地の真ん中で上空に向かって両手を振る母と、そのすぐ上でホバーリングするヘリコプターがあったのです。

今思えばその距離は十メートル位だったのでしょうが、その時はジャンプすれば届く位の距離に感じられました。子供心に普通ではないそのシチュエーションに戸惑ってはいたのですが、ヘリコプターをその角度から見るのは初めてですし、かなり興奮したのを覚えています。

時間的にすれば30秒にも満たなかったと思うのですが、遠くの空に飛び去るヘリコプターを見ながら母はこう言ったのです。

「私が呼ぶと来るんよ」どうも母は呼んでいるらしいのです。その後も何度かその状況を目撃しましたが、私が居ない時にもちょくちょく〝呼んで〟 いたようです。
 今、母は私の妹と一緒に暮らしているのですが、この間、今年小学5年生になる妹の娘が私に話してくれました。

「おいちゃん、あのなぁ、この前ばあちゃんがなぁ、ヘリコプター呼んだんで。風が部屋の中まで入ってきて描きかけの絵が飛んだんで」
母のヘリコプターフェチは未だに健在のようです。


 http://korogi.sakura.ne.jp