462−異世界

子供の頃は週末になると従弟のS君の家と私の家とを交互にお泊まりするのが恒例となっていて、2人で翌日の早朝からの釣りの話で夜遅くまで盛り上がっていました。そんなある日の事いつものように散々盛り上がった後そろそろ寝ようかという段になってS君がこんなことを言い出します。

「違う世界に行く方法を知っている?」

そんな興味深い事を私がスルーする訳がありません。その方法とやらをS君は伝授してくれるのですがイマイチ要領がつかめないのでS君に実際にやってもらう事にします。ところがS君はそれを行うのはかなりの危険を伴うので滅多に出来ないと言い出すのです。彼の十八番の『じらし作戦』です。結局は私の『一生のお願い攻撃』にS君は実際にそれを披露してくれる事になります。

「ただし条件がある。僕が5分たっても元に戻らない場合は強制的に僕を連れ戻してくれ(実際はもっと子供言葉です)」

S君が布団の中で天井の一点を見つめながら声変りもしていない声を無理やり低くしながらそう言うものですからその場の空気は一気に緊張感に包まれます。このような刺激的なシチュエーションを作るのが得意なS君でしたがその雰囲気をよりリアルなものに仕立てるのが私の得意分野でした。

「わ、わかった。約束する。5分経ってS君がこっちに戻らない場合は僕が命に代えても君を連れ戻す!」

ある意味その時点ですでに異世界みたいなものですが、S君はその技を披露してくれたのです。    つづく


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