419−トタン

何故か都合の悪い事を回避する為の行為が更に悲惨な結果を招いてしまうということはよくあります。

若かりし頃のRさんが生まれて初めてのデートで夜の神社を選んだのは何らかの下心があったものと思われるのですが、あまりの緊張のせいで長い階段の途中で尿意をもようします。階段の脇の藪に分け入って用を足してしまおうと思ったそうなのですがそこは枯れ葉が何層にも積み重なっており確実に排尿の音を彼女に聞かれてしまう事になるのでそれは避けます。いくらRさんでもはじめてのデートでそれは恥ずかしかったのでしょう。

それでも我慢には限界があります。切羽詰まったRさんが考えた方法は『彼女を脅かす為にふざけて彼女を置き去りにする男を演じ、その間に事を済ませる』というものでした。

出来るだけ彼女との距離をとるために階段を駆け上がり藪の中に分け入ります。たまたまそこは崖のようになっていて、その縁に立って思い切り前方に向けて排尿すると枯れ葉にかかることはないので音はしなかったそうです。

Rさんが『ホッ』とした次の瞬間『バタバタバタバタ』とスゴイ音がします。結局その音に驚いてRさんに助けを求める為に藪の中に分け入ってきた彼女に現場を見られてしまうのですが途中で止める事の出来ないRさんは開き直るしかなかったそうです。

音の原因は崖の下のトタン屋根の建物に高所から大量のものが降り注いだ音で、その音は神聖な神社の境内に響き渡ったと言います。彼女の「イヤァ〜」という悲鳴と崖の下からの「コラァ〜」というおじさんの声はほとんど同時だったそうです。

勿論、彼女とは二度とデートをすることはなかったそうです。


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