378−露天風呂

「思い込み」といえば高校の修学旅行の時にこんなことがありました。

その大きな旅館には立派な温泉があるのですが、就寝時間も間近になった頃にH君が「露天風呂に入らないか」と言い出します。

その旅館には露天風呂はなかったはずなのですがH君の情報によると中庭で露天風呂を見たというのです。旅館の建物は中庭をグルリと囲むような造りですので私も何度か中庭は目にしていたのですが露天風呂がある事には気づきませんでした。

それを確かめたいのもあって私はタオルを片手にH君の後について行くのですが、時間もおそかったので旅館内の照明も暗くなっていて中庭に至ってはほぼ真っ暗でした。

H君はと言うと既に中庭に出ていてジャブジャブという水音までたてているのです。

「こっちこっち」というH君の声のする方に進むと湯船につかっているH君が暗闇の中にうっすら見えたので私も湯船に入りました。


ところがお湯が思ったよりもぬるく、しかも浅いのです。H君に言わせると時間も遅いのでお湯を抜いたのだと言います。お湯の量は納得出来ても温泉だというのにお湯の温度が低い意味がわかりません。

それに時々足先に触れるヌメッとしたものの正体がわからないのでH君に訊ねようとしたその瞬間です。

「さ、魚、さかな」とH君が悲鳴を上げるので私も驚いて立ち上がるのですが足下がヌルヌルして上手く湯船から出る事が出来ません。

焦れば焦るほどバランスを崩し2人してバシャバシャとやるものですから女子達が「誰か中庭にいる〜」と騒ぎ出しその内旅館の人や先生も駆けつけてきて大事になります。

照明に照らされて初めてそこが鯉の池だとわかるのですが、先生方の優しい計らいにより冷えた体を温めるべくもう一度本物の温泉に入ることを特別に許可していただきました。


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