373−指輪

永年使っている『物』にはそれなりに愛着があるもので、それが常に身に付けている物だったりすると尚更です。不思議なのは自分の持ち物にはあまり感じないのですが、他人の持ち物に限ってその『物』に対する持ち主の想いや記憶のようなものを感じることがあります。

それは自分の想像か妄想だとは思うのですが中にはそうではない事もあるようです。


当時ある港での夜釣りにハマっていた時期があり、毎週港に通っていたのですが、ある日釣りを終えて港を出て少し車を走らせた所で道路の左側の歩道に並んだコンクリートのフラワーポットの縁の上に指輪を見つけます。

それは車のヘッドライトが反射したからで昼間なら絶対に見逃していたと思います。

その指輪は18金で表面に梅の花のデザインが彫り込まれた美しい指輪だったのでツイ持って帰ってしまうのですが、すぐに後悔します。

その指輪を触っていると何故か持主らしき若い女性の悲しい感情と別れ話のシーンをリアルにイメージしてしまうのです。

気味が悪いので結局1週間後の釣りの時に元の場所に戻すのですが偶然とは恐ろしいもので、私は港へ向かう途中でしたから指輪をフラワーポットの上に置いて道路の向こう側に止めた車まで戻ることにですが、車に乗り込んでエンジンをかけた丁度その時、白い乗用車がフラワーポットの前で停まります。

車から飛び出した女性は「あー良かったーまだあったー」そう言いながら運転席の男性に指輪をはめた手を差し出すのですが、その笑顔の女性は間違いなくあの女性でした。



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