333−うなぎ

この話は誰も信じてくれませんが本当の話なのです。

小学生の頃は『お使い』は勿論、『お風呂の掃除』も私に与えられた大切な任務でした。

その日もいつものようにお風呂の栓を抜き、お湯が全部なくなるのを待って浴槽の掃除にとりかかる予定だったのですがその日は違いました。

お湯が無くなるか無くならないかの時にお風呂の栓の穴から何か黒いものが出て来たのです。


最初はヘビかと思ったのですが体全体が浴槽の中に出てきたのを見てそれが『うなぎ』だという事がわかります。

結構な大きさのうなぎで直径が4センチはあったかと思います。

それがうなぎだとわかっても浴槽の中に居るのは不自然ですから急いで母親に知らせに行くのですが「お風呂にうなぎが…」と言った所で後頭部を平手打ちです。

私が嘘をついて掃除をサボろうとしていると思ったのでしょう「いいからサッサとやってしまいな!」と全く相手にしてもらえないのでほとんど泣きながら訴えていると条件付きで確認してもらえる事になります。


「わかった、もしうなぎがいなかったらタダじゃすまないよ、いいね!」やっとのことで母親と一緒にお風呂場に向かう事が出来たのですが、途中で全身から血の気が引くのがわかりました。

浴槽の栓をしていない事を思い出したからです。

しかしここはうなぎがまだ浴槽に居てくれる事に賭けるしかありませんから母親よりも先に浴槽を覗き込むのですが、かつて経験した事のない衝撃が後頭部に走ることになります。


うなぎの影も形もない浴槽を泣きながら掃除しながら、おそらくうなぎの残して行ったであろうところの『ヌメヌメ』を証拠品として母親に提出する勇気もなく、その日からお風呂の掃除をする度に、もう一度うなぎが戻って来てくれるのをただひたすら願い続けるのでした。


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