272−豊後水道

中学生の頃の話です。

休みの度に従弟のS君と一緒に佐賀関の海岸によく釣りに出かけていました。

関サバ、関アジで有名なあの佐賀関です。

夏場は海水浴場になる遠浅の海岸からカレイやキスを狙っての釣りがメインでしたので、さす
がに関サバは釣れませんでしたが結構良い形のキスはコンスタントに釣れていました。

季節的には夏の終わりか、秋の初めだったと思います。

その日もいい感じで釣りをしていたのですが、夕方近くになって背後の山の中から犬の吠える
声が聞こえてきます。

その犬の声が確実に海岸の方に近づいてくるものですから、10メートルほど間隔をあけて釣
りをしていた私達は非常時に備えて注意をすることを確認しあっていたのですが、その最中に
何か黒いものがものすごい勢いで2人の間を駆け抜けそのまま海の中に飛び込みます。

あまりにも突然でしたので驚く暇もなかったのですが、それはイノシシでした。

イノシシはそのまま沖に向かって泳ぎ始めるのですが少し遅れてやって来た2匹の犬は波打ち
際で吠えるだけで、泳いでまで追いかけることはしませんでした。

見たところ犬は猟犬ではないようでしたので、イノシシはたまたま野良犬に追われたのだと思
います。

イノシシは夕陽の海をどこまでも泳いでいきましたが、あの逞しい泳ぎっぷりと、あの方向な
ら間違いなく豊後水道を横断し、無事、四国の地に上陸出来たと信じています。


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