247−共通点ー③

今年の春先のことです。

農業をしている義理の兄に頼まれて収穫した野菜を夜中のうちに市場まで運ぶのを手伝うので
すが、トラックに大量の野菜を積み込んで一息ついて少しアルコールの入った兄に代わってト
ラックを運転するのが私の役目でした。

市場までの距離は車で20分くらいでしょうか、適当におしゃべりをしながらドライブするにはちょうど良い距離でした。

近道をするためにメインの道路から旧道に入ると車の量は随分と少なくなるのですが、夜中と
言ってもまだ10時を少し過ぎた位ですから車はそこ々走っています。

交差点の信号が赤に変わったので先頭を走っていた私の運転するトラックは普通にブレーキを
かけ普通に止まるのですが私には気になることがありました。

その交差点一帯だけが淡い青い光に包まれた感じがしていて、しかも例によって風がないので
す。

全開の窓から出した右腕が感じる生暖かい空気は前にも何度か経験した事のあるあの音のない
世界に良く似ていると思っているところにある声が聞こえてきます。

最初は近くの草むらで猫が鳴いているのだと思ったのですが、どう聞いてもそれは生まれて間
もない赤ん坊の泣き声でした。

『それが何故草むらから聞こえてくるのだろう』と不思議に思っているところにお兄さんの

「赤ちゃんの声が聞こえないか?」という言葉でトドメをさされます。

もしそれが本当に赤ん坊ならその辺の草むらの中にいるわけで、それはもう立派な事件か事故
なわけですから放ってもおけず、ほとんど車を降りて声のする辺りを探してみようと思ってい
たところに車のクラクションです。

信号はとうに青に変わっていたらしく慌てて車を発進させるのですが、不思議なことにその瞬
間に辺りの風景はいつものそれに戻っていて、交差点には草むらで少々大きな声がしてもそれ
を聞き取るのはまず不可能な位の騒音が戻っていました。

これらの3つ体験に共通する『光源のない光』や『音も風もない世界』や『生暖かい空気感』
が何かに似ているとずっと思っていたのですが最近やっと気がつきました。

19世紀から20世紀にかけて活躍したノルウェーの画家『ムンク』の描き出すあの世界観と
とても似ているのです。

もしかするとムンクもあの不思議な世界を見ていた画家だったのかも知れません。


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