044−浮遊

私が「飛行」と「浮遊」に全く逆のプロセスを感じてしまうのは、子どもの頃の体験からそう感じるのだと思います。

私は4〜5歳の一時期、特定の場所なら浮遊は普通に出来ていました。

その特定の場所というのが笑ってしまうのですが、自宅の居間と隣の部屋を仕切る襖の左側にある「漆くいの壁」の前だけなのです。

他の場所でも試してみましたが、どうもそこだけの限定のようでした。

正確には浮遊ではなく、壁から突き出た階段状になった空気の層を上るだけなのですが、それがいつもあるとは限りませんでした。

何故か、お風呂上りの数分間と留守番の時だけなのです。

その空気の層を足で探りながら天井付近まで登るのですが、足が掛かる幅は10センチほどしかありませんから壁に張り付いたまま上手くバランスをとるのが結構難しかったように思います。空気の層が出現している時間も一定していないので天井付近から落下することも度々でした。

それがいつ頃から出現しなくなったのかはよく覚えていません。

出現しなくなったから意識しなくなったのか、意識しなくなったから出現しなくなったのかは定かではありませんが、今になって思うに、それはおそらく幼年期の不安定な精神と想像力が創り出した幻覚だったのだと思います。

それにしてもあそこまでリアルな幻覚を体験できるのなら、もっとちゃんとした空中浮遊を体験させてもらいたかったものです。


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